猫の話

〇 映画「猫の恩返し」ならぬ「猫への恩返し」
知人宅の話ですが、こんなことがありました。かつて、知人が新築の日本家屋を購入して暮らしていました。和風とはいえ瀟洒で日当たりも良く、部屋には虫一匹も見当たらないほどの清潔な暮らしぶりだったのです。ところが、ある日を境にその暮らしは激変しました。何と、その日から屋根裏にネズミが住みつくようになったのです。隣人の古い家屋が取り壊されたため、そこを根城にしていたネズミがどうやら大挙して隣の知人宅に引っ越して来たようなのです。 困った知人は、あれこれ策を講じましたがどれも効果なく、家の売却を考える日々が続きました。そんなある日、ひょんなことから友達の猫を3匹預かることになりました。海外赴任の決まった友人の猫たちの面倒を、2年間の約束で見ることになったのです。しかし、しばらくすると知人は不思議なことに気付きました。この猫たちと暮らしている間に、すっかりネズミの気配がなくなってしまったことです。猫3匹がやって来てから約半年、ネズミの姿も鳴き声も、駆け回る物音も、ネズミの影形は一切なくなっていたのです。あれだけ思い詰めた悩みが、これほどまで簡単に解決するなんて、まさに「猫さまさま」!!猫に感謝しても、し足らないと考えた知人は、残りの人生を猫のために捧げよう、と決意したのです。知人は公務員という安定した職を離れ、猫の葬儀屋さんを始めました。その一方で、飼い主のわからない猫を引き取ってきては自分の家で育て、瀟洒な和風建築の家は猫御殿さながらに変身しました。現在、その知人は亡くなり、猫御殿は色鮮やかな洋風建築に建て替えられ、今では全く縁もゆかりもない人が住んでいますが、一年に一回、知人の命日の頃になるとなぜか、どこからともなく猫たちがその家の周囲に集ってくるのだそうです。知人の魂は、未だその家に留まったまま、猫たちを呼び寄せているのかもしれませんね。




〇 猫はいつの時代も同じように人々の傍らで

猫が中国から日本に渡ってきたのは平安時代と言われていますが、その理由は、やはり大切な書物や食べ物をネズミから守るための、「ネズミ捕り」の意味合いが大きかったようです。その後、人になつくことから次第に人々の生活に深く関わってくるようになり、現代に至っては、犬と同様、完全にペットとしての地位を確立し、人々の心を癒す存在になったわけです。 同時に、猫は古くから神秘的な動物として扱われてきました。鎌倉時代の「徒然草」の中でも描かれているように、猫が恐ろしい生き物であるとする考察は、後に日本各地に見られる化け猫伝説の言い伝えとして残されています。また、江戸時代には猫の目で時刻を読んだり、「眠り猫」の姿に象徴されるように“猫の長い眠りの時間は死後の世界とつながっているのではないか”と想像され、あの丸まった形が何とも不可思議とも言われてきました。 いずれにしても、江戸時代は浮世絵にも再三、猫が登場し、猫の諺もたくさん生まれたように、猫はかなり庶民の暮らしに溶け込んでいたようです。

猫は、犬のようには多彩な品種があるわけではなく、流行もなければ、顔形や飼い方にも、犬ほどの違いやこだわりはありません。しかし、逆に言えばそれは、猫はいつの時代にも人々の傍に同じような佇まいで存在した、という証しでもあります。世の中がどう変わろうと、例えばチョンマゲの時代であろうと明治維新の動乱期であろうと、グローバル社会が到来した現代であろうと、猫は猫としてどんな時も人間社会の中で人々と良い付き合いをしながら生きているのだということです。何とも言えない独特のフォルムと高い身体能力を窺わせる素早い動き、それに吸い込まれそうな透明な瞳……。猫の世界は、やはり偉大なるミステリアスなのです。

▲このページのトップに戻る