こんな時どうする? No.1 「飼い犬に財産を残す方法を知りたい」 

不安を安心に変える一筆!!《世田谷区在住・80歳・財産5000万円・Sさんのケース》

80歳になったことを機に、知り合いの紹介でM行政事務所を訪れたSさん。その目的は、3歳になる愛犬、トイプーのくうちゃん(メス)の将来を思ってのことだった。実は最近、Sさんは体調が芳しくなく、ふとした時にもし自分がくうちゃんより先に死んでしまったらどうなるのだろうと不安にかられることが多くなっていた。そうなれば、自分の財産を子供同然の愛犬に分けてやりたいと考えるのだが、そんなことが果たして可能なのだろうか。行政書士に何としても聞いてみたいと思い、ペット法務を専門とするM行政書士事務所を訪れた。

 

息子の身代わりの世話が犬を飼うきっかけに!

Sさんは、10年前に一人息子を病気で亡くしていた。その息子が無類の犬好きで、残された柴犬2匹を引き継いだのが飼い犬を持つきっかけだった。息子は独身だったために柴犬2匹は息子の家族も同然。Sさんにとっては息子の身代わりにも思えた。Sさんは2匹に惜しみなく愛情を注ぎ、また、それまでの、ひっそりとした夫との二人暮らしも一転、2匹が加わった生活はとても賑やかなものとなった。そんな楽しい日々を過ごすことで、息子のいなくなった寂しさを忘れるよう努めたSさんだったが、息子の死から2年後、追い打ちをかけるように、今度は夫との死別という運命が待っていた。そして、そこからさらに5年後には、1年間のうちに柴犬2匹が相次いで寿命を迎えるというSさんにとって耐え難いほどの悲しい事態に陥ったのである。

 

目のまん丸いくうちゃんに一目惚れ

どうにも元気の出ないSさん。ペットショップでワンちゃんを見るにつけ、息子の忘れ形見を思い出す日々。そうこうしているうちに、空虚な心を埋めるためには、どうしてもそばにいてくれる別のワンちゃんが必要だという考えに至った。そこで、自分の年齢も忘れ、生まれたばかりのくうちゃんを家族として迎えたのである。“くう”と名付けたのは、ペットショップで初めて見た時、くう(空)をじっと見つめるような目が、まん丸くて可愛かったから。ファーストインスピレーションである。そして現在まで、二人きりの生活が3年ほど経過した。Sさんはともに暮らすくうちゃんに、財産を残したいと願う気持ちが日々募っていったのである。 そんな事情から現在Sさんに家族はなく、相談できる相手といえば同じ区内に住むいとこのN男と何かと力になってくれる近所の友人・K野さんの二人である。預貯金は、夫の残した5000万円。先々、老人施設に入所するための資金に、と思って手つかずのこの現金と世田谷区の古い一戸建てがSさんの全財産というわけだ。 さて、いったいどんな方法でくうちゃんに財産を残してやれるのだろうか?

 

決策 1 

M行政書士「愛犬に財産を残すということは、言葉を換えれば、自分が亡くなった後に愛犬に愛情を持って世話をしてくれる人へ、財産を一部託す、ということです。“自分が亡くなった後、犬のお世話をしてくれる人へ財産を残す”ということで、これを法律用語で“負担付き遺贈”と言います。お世話をしてくれる人との話がまとまれば、その内容を依頼者が遺言にしておく必要があります。さらに、口約束だけではお世話をしてくれる人の翻意が不安だという場合には、二人の間で契約書(死後事務委任契約)を交わしておくと万全でしょう」

 

まとまった財産をもらうのには罪悪感が!

Sさんの場合、愛犬のために残す財産は十分にあるので、まずは愛犬の面倒を見てくれる人がいるかどうかが問題となります。近所に住む友人のK野さんは、日頃くうちゃんが懐いているということで、Sさんは信頼のおけるK野さんにお願いしてみました。K野さんはSさんより10歳若く、その昔に犬を飼った経験もあるということから、快く承諾してくれました。ただ、K野さんにとってSさんが亡くなることに現実感がなく、また、“他人からまとまった財産をもらう”という行為自体に罪悪感を感じるということで、今すぐ、契約書を交わさなければならないのか、案じているようでした。そこで、Sさんに、K野さんを事務所に連れて来て頂き、Sさんに急な事態が起こってからでは遅い、ということをていねいにお話しました。なぜなら、ペットは生き物であり飼い主に何か不都合な事があったとしても、だからといって、その日からご飯が与えられないことになっては命の危機に陥るからです。Sさんの「お世話をしてほしい」、K野さんの「お世話をしてあげたい」というお互いの気持ちは一致しているので、契約にこぎつけるには、K野さんの“財産をもらう”という罪悪感を払拭すること。そこが最大のポイントでした。

 

愛犬のための信託会社を設立

そこで、Sさんに会社を設立してもらうことを提案しました。愛犬のための信託会社です。会社設立は現在、資本金1円からでもできるためハードルは高くありません。合同会社にすると、登記料も手頃で煩雑な事務的処理もスムーズに運びます。会社代表は唯一の身内、いとこのN男くんに頼んでみることをお勧めしました。Sさんはその提案にのってくれました。また、N男くんは、頼まれればいやと言えない雰囲気のなかなか男気のある方でした。「私でお役に立てれば」と快く承諾してくれたので、さっそく会社の登記をし、こうして『S合同会社』が設立されたわけです。さて、これでK野さんに渡されるべきくうちゃんの財産は、いったん『S合同会社』に預けられることになりましたが、これがいったいどれぐらいの額になるのか試算しなければなりません。○毎日のくうちゃんのご飯代や諸雑費とトリマー代金で月に約16,000円、○医療保険代金が年に約25,000円、○他に、春の健康診断や予防注射代などが年間約50,000円合わせて、年間270,000円となります。これにトイプードルの平均余命13年に、寿命には個体差があるため余裕を見てプラス3年で16年。それに、現在3歳なのでマイナス3年。つまり、13年分を計上すると、トータル3,510,000円となります。これが、現在から亡くなるであろう時までの、くうちゃんにかかる費用となるわけです。これはK野さんがくうちゃんのお世話を始めた時から、毎月会社を経由してK野さんに渡されることになります。Sさんは、さらに費用とは別に、K野さんへの謝礼1、000,000円を支払うとし、これは、Sさんが亡くなった時点で行使されることになりました。こうして、会社からの分割支払いということで、K野さんの“まとまった財産をもらう”という罪悪感は消え、Sさんは望み通りに負担付き遺贈の遺言書を書くに至りました。また、会社代表のN男くんも無報酬というわけにはいきません。事務的な仕事や経理もこなしていかなければならないので、話し合いの結果、年間600,000円の給与を決定しました。K野さんに3,510,000円+1,000、000円=4,510,000円 N男くんに600,000円×13年分=7,800,000円 資本金2,000,000円登記料や印紙代など含め、しめて、15,000,000円程度が、会社の口座に振り込まれることになりました。つまり、Sさんの金銭財産5000万円から、くうちゃんへ1500万円の財産を残してあげられることになったわけです。

 

見張り役をおくと、より安心!

万事がうまくいったこのケースですが、ただ一点、気になることがあります。仮にSさんが亡くなった後、遺言に従ってくうちゃんがK野さんのお世話になることになったとして、果たして、K野さんが愛情を持って日々くうちゃんを育てているか、またN男くんの合同会社が毎月、K野さんに必要経費を渡しているかどうか、残念ながらSさんがチェックすることは無理だということです。Sさんにとって信頼のおける二人だから、約束は守られているとは思いますが、くうちゃんの幸せのために正確な情報がほしものです。でも大丈夫です。そういう時は、私が月1回、くうちゃんに会いに行きます。また、正しく会社の運営がされているかどうか、N男くんに会計簿を年に何回か提出してもらうことも可能です。もちろん私でなくても、誰か見張り役をSさんが事前に決めておくこともできます。そこまで決めて本当の万全、Sさんが亡くなった後でも、くうちゃんの生活と生活費は担保されることになるといえるでしょう。 Sさんが初めて相談に来られてから、ここまでにかかった時間は3ヶ月。Sさんは、「これで私はいつ死んでも安心」とニッコリされました。


《財産はなし。まとまった資金もない場合にはどうする?》

Sさんの場合はくうちゃんにあげる財産があったために、うまく友人を巻き込んで思い通りにことが運べましたが、では、同じ不安を抱えている人の中に財産家でない人もたくさんいます。そういう人は、どういう道があるのでしょうか?

 

解決策 2

M行政書士「飼い主が亡くなり、ペットを引き取る人が決まっていない場合、現実にはNPO法人など、寄付で運営している組織に預けられることになります。ただ、誰にお世話してほしい、とか、ここに依頼したい、というような希望をかなえるのは難しいと思われるので、特別な意向がある場合は、それを身内などに伝えておくと遺族がなるべく本人の意に沿うようにはからってくれるかもしれません。もちろん、そういった件を頼める適当な人がいない方は、私のような立場の者に話しに来られてもいいですよ。 ご自分が亡くなった後のペットの受け入れ先を生前に決めておきたいという方は、私が紹介したNPO法人の中からいくつか候補を選択し、交渉に入ることも可能です。うまく話がつけば「死後事務委任契約」を締結できます。その場合、多少先方への費用がかかるでしょう。預貯金が多少でもある方は、それを残されたペットのために使いたい意思を書面に残しておきましょう。例えば、30万円の貯金を寄付するのでNPO法人にお願いしたい旨、書き残しておくのも「負担付き遺贈」の遺言の一種です。希望の団体があれば、1,2,3、とその順番を書くことで、そのどこかに愛犬を引き取ってもらえる確率が高まります」


☆解決のポイント

  会社を設立して第三者の目を光らせること 

  たとえペットのことでも希望を一筆、書面に残しておくこと

  注: このストーリーと同様に行動すれば、同様の結末になるとは限りません。













▲このページのトップに戻る